チェンバロは、プレクトラムという小さな爪による撥弦機能をもった鍵盤楽器の一族で、ヨーロッパでは15世紀中期から使用されてきた。
その名前がはじめて見ることができるのは、1404年のドイツの詩の中の「クラヴィシンバルム」(Clavicymbalum)というラテン語の形においてである。1440年頃には、物理学者で天文学者であるズウォレのアンリ・アルノー(Henri ARNAUT de ZWOLLE)が執筆した概論の中にチェンバロの製造法が見られる。どうやら、その当時は、クラヴィシンバルムのために書かれた作品はなかったようである。そのため、多声ミサ曲やオルガン用の曲集を編曲して演奏するしかなかったのではないだろうか。
歴史的にもっとも古い時代のチェンバロは主としてイタリアの製作者によるものである。私たちが知る最古のチェンバロはイタリア・ボローニャのヒエロニムス・ボノニエンシス(Hieronymus BONONIENSIS)によるものである。1521年製のその楽器はロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館に保存されている。
イタリア系のチェンバロの特徴は、まず楽器の奥行きが長めであること、素材の軽さと明るい音色、鍵盤が一段だけの場合が多く、長い間、音域が4オクターブに固定されていたこと、そして、装飾が豊かなことである。
バロック時代イタリアの作曲家兼チェンバロ奏者のなかから、あえて挙げるとすれば、ローマのベルナルド・パスクイーニ(Bernardo PASQUINI/1637-1710)、ナポリのドメニコ・スカルラッティ(Domenico SCARLATTI/1685-1757)、ベネチアのベネデット・マルチェッロ(Benedetto MARCELLO/1686-1739)などだろうか。
今月私がおすすめしたいのは、ジロラモ・フレスコバルディ(Girolamo FRESCOBALDI/1583-1643)である。例えば「トッカータ集」。リナルド・アレッサンドリーニの1993年の録音(ARCANA A404)があるので、ぜひとも一聴してみていただきたい。
テシュネ・ローラン
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ジロラモ・フレスコバルディの署名入りのまえがき(トッカータ集)
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ジロラモ・フレスコバルディ(Girolamo Frescobaldi)へのオマージュ 1637
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パリ国立高等音楽院を卒業。01年、音楽之友社より「フランス・バロック舞曲集」を、03年、全音楽譜出版社より「全音ピアノライブラリー・18世紀フランス王朝時代からの鍵盤曲集」を出版。同年コジマ録音より「チェンバロ+日本Ⅰ」(ALCD・9045)をリリース。
現在、東京芸術大学助教授、桐朋学園大学講師。 |