フランス革命下のジャクリー
La jacquerie à l'époque de la Révolution française


今回のこの講演は、フランス革命前期に表れたグランド-プール下のジャクリー運動についての分析を中心に、当時の地方農村民の思いや要求の歴史的性格を明らかにするというものであった。主に使用された史料は1789年2-3月段階に作成された「農村教区陳情書」と、ジャクリーによる城館攻撃に係わる「警察調書」などである。地域として注目したのは、バス-ノルマンディーのオルヌ県である。

ここでは、講演で利用した二つの村の教区陳情書(①アランソン近くの村、サン-ジェルマン-デュ-コルベイ、②アルジャンタン郡、エッム近郊のマルノワイエ村)の内容を紹介することにしたい。

両村に共通するところは、第一に、十分の一税の廃止ないしは軽減の要求、第二に、全身分の平等な税負担、第三に、領主の鳩小屋特権などの特権廃止、第四に、領主のバナリテ権の廃止、第五に、森林用益権などの領主反動に対する抵抗などの部分である。ともに教区農民たちの日常生活に密接に関係した要求が並んでいる。

このように、オルヌ県下の教区陳情書は領主たちの特権や領主反動を激しく非難することこそあれ、領主制などの封建制システムを打倒しようとは主張していなかった。国王への尊敬の念を表し、全国三部会を召集したことに感謝し、国家に対して協力を求めるものとなっていたのである。

にもかかわらず、革命政権のあるパリではそのようには理解されなかった。そうした農村民衆の主観的な思いは、オルヌ県およびほかの地域ではジャクリーの運動として展開されたが、それが、客観的にはフランスの土台を揺るがしかねない可能性を持った「革命的な」運動と認識されてしまうのであった。つまり、状況の変化の中で、農村民の思いや運動が大きな意味を持ってしまったのであった。

以上のことからわかるように、オルヌ県の農村民の主張や行動は、革命的「ラディカリズム」とは無関係でないにしても、それとは次元を異にするところの、中世以来の農民的ラディカリズムの流れの中にあるような、伝統的な香りのする異議申し立てであったのである。

2005年12月

近江吉明(専修大学文学部教授)

 

尚、フランス革命関連史料が、専修大学図書館内の「ベルンシュタイン文庫」に4万数千点収集されていて、現在、マイクロフィルムで利用できるようになっています。興味関心のある方は、http://www.lib.senshu-u.ac.jp/までお問い合わせ下さい。